東京都知事選挙2020 ~ソーシャル視点から見えてきたリアル選挙の課題とは~【前編】


はじめに

現在電通国際情報サービス(ISID)では、Social Intelligenceを活用して、with/afterコロナ時代の消費者を分析するソーシャル分析支援キャンペーンを実施しています。改めて、どういった分析ができるのかを知って頂くためにも、今回参考となる簡単な事前事後のタイムライン分析を行ってみました。

テーマとしたのは、東京都知事選挙(令和2年7月5日施行)です。東京都民を始めとして国民の関心も高かったであろうこのトピックを扱ってみます。

さっそく分析をしてみようと思いますが、選挙の結果としては、現職の小池百合子氏が再選を果たしました。この再選について、様々なメディアが取り上げておりましたが、ソーシャル上ではどのようなトレンドが生まれ、結果に対する反応がどうであったかと、そこから窺い知れるインサイトについて、NetBaseを利用して分析してみます。

参考情報として、候補者と獲得票数・率を記載しておきます。

出典:https://www.yomiuri.co.jp/election/local/tochijisen2020/results/

分析・考察の視点としては、以下となっております。


●検証ポイント①:開票前のトレンド

状況

今回は、主要キーワードとして「都知事選」「選挙」「投票」の3キーワードを指定し、開票までの期間(6/18(木)0:00~7/5(日)20:00まで)で分析してみました。

それだけで、全体の投稿数とキーワードのメンション数、投稿者のフォロワー数と拡散数が加味された想定インプレッション数がわかり、キーワードの話題感を把握することが可能です。状況として、1,000万を超える投稿、理論値として200億近いインプレッションだったことがわかりました。

そして、タイムラインを見ることで、時系列でソーシャル上の動きが理解できます。

  • 公示開始より500,000メンションを維持しており、当初から一定の関心が持たれていた
  • 7月に入ってからより投稿が増え、開票日前日の7/4からは感情を含めた投稿が著しく増加し、開票タイミングに向けて右肩上がり
  • センチメント判定としては、ポジ傾向については緩やかに増加傾向、ネガ傾向については複数回の山が見られる

また、センチメントの起因となった要素が何だったかも、影響力のあった投稿から紐解くことが可能です。

それぞれ山となっていたタイミングでの人気の投稿を見ますと、上記の内容でした。

人気の投稿では、リツイート、返信といったエンゲージメントの総数と想定インプレッションといった影響力に加え、ポジネガへの影響度合いを見られるため、これを起因した投稿として付随するセンチメントを把握することができした。

論調

全体的な論調がどうだったかは、キーワードとセンチメントによって把握することが可能です。

  • ポジティブとしては、「投票率」「候補者」「考える」といった選挙への関心が伺えるキーワードが並ぶ
  • ネガティブとしては、オリンピックや第1波、第2波等コロナ関連といった関心事と選挙との関連についてのワードが見られる
  • 感情は、「いい(候補者に対する姿勢や記事について)」「(投票権・用紙を)貰える」「(投票用紙)気持ちいい」など、選挙や投票への意識の高まりが感じさせるポジ意見の一方で、選挙カーに対する「襲撃」やなりすまし投票に対する「こわい」といった内容が投稿・拡散

”投票用紙はユポ紙といって書き味がしっとり滑らかで気持ちいいです。”

  • 候補者名が上位キーワード入りしていないが、固有人物名軸で見たときのメンション比は「桜井誠」(7.28%)>「山本太郎」(7.52%)>「小池」(5.56%)>「宇都宮けんじ」(4.44%)の順。ただ、姓名合算でカウントすると、 「小池百合子」(9.61%)>「桜井誠」(8.77%)>「山本太郎」(8.42%)>「宇都宮けんじ」(6.63%)となり、ポジネガ抜きに小池氏への関心は高かったということもわかった

また、センチメントは、感情に紐づく形で行動、属性、事物の軸でキーワードを拾うことでインサイトを把握することが可能です。

  • 使う、行使といった投票意向がポジとして表れているが、「決める」に紐づく「決められない」という投稿や、そういった民意を報じる内容がネガとして目立った

”前回の都知事選より扱いが小さく不安ですが、投開票日は「来週」です”

”今回の東京都知事選挙で、立候補者の討論番組の計画がないという”

”立候補者の政策や主張の良し悪し、討論の中で見える人柄も分からず、投票者を決める判断材料がない”

  • 加えて、都知事選・オリンピックのためにコロナ対策が遅れたのでは?という発信が拡散され、ネガとして多く見受けられた

”第一波はオリンピックのため、第二波は都知事選のために初動が遅れる”

考察

コロナ対応より優先された都知事選という文脈での批判、投票者を選定するための情報不足(討論番組等に対する)といった投稿への同調が多かったことが拡散として表れている一方で、選挙参加、投票率向上といった働きかけが特定のハッシュタグの活用にも表れており、公示期のソーシャル上の動向だったのではないかと思います。

これまで主だった投稿を見てきましたが、ソーシャル全体のボリューム感としてはどのような構成だったのでしょうか。

AI Studioにてクラスターを見てみました。

それぞれの投稿の内容を見ていくと以下のような層に分けられると言えるでしょう。

  • クラスター① : 投票巻き込み・意思発信層(35%)
  • クラスター② : 批評・問題提起・意識高い層(35%)
  • クラスター③ : 関心はある傍観フラット層(30%)

この結果から、総じて関心はあって、大きくは、意思を発信し促進する層、公約内容や報道の在り方含めて批評的な姿勢を取る層、第三者的に選挙関連の情報を発信していく層がそれぞれ1/3程度といったように分類ができるようです。

では、開票後の反応はいかがだったのでしょうか?開示開始の7/5(日)20:00以降の状況も見てみます。


●検証ポイント②:開票後の反応

状況

今回開票間もなく小池百合子氏の再選当確の速報が出ましたが、ソーシャル上でも20:00がピークとなっていました。

ちなみに、前後の1時間だけ抽出するとこんな感じです。

開票直前からネガティブ傾向が強まっているという状況でした。中身も見てみましょう。

論調

キーワードも細分化されていますが、ポジティブでは「小池百合子」「圧勝」「予想通り」といった決定の事実に関するキーワードが多く、ネガティブとしては「なりすます」「ビックリ」「こわい」といったワードが頻出していました。
特に、感情としても「こわい」が挙がっており、インサイトも見てみる必要がありそうです。

「こわい」に紐づく投稿は以下のようです。

”投票所に行ってビックリ!私は期日前投票を済ませていることになっていてもう投票は出来ないそうです。なりすまし投票こわい…”

この「なりすまし」を想起させる投稿が非常に多く拡散されていることに加えて、「(都知事選の結果を見て)TVこわい」「(次の都知事選も)こわい」「恐ろしい選挙だった」といったような肌感と結果とが異なることでの不安が多かったようです。

それ以外のセンチメントに起因する要素も見てみます。

ここでも結果に対するギャップから高まった「ネット投票」というワードと、それに対する「無理」「(不正が可能なので)やめたほうがいい」といった投稿が多く見られ、疑心暗鬼というインサイトが発端となった議論の応酬がなされていたようです。(ちなみに、投票前同様人物軸で見ますと、当たり前ながら小池氏が圧倒という結果でした。)

考察

選挙の信ぴょう性を疑うようなインサイトから、ネガティブが先行する結果となっていたということがわかりました。

次に開票後のクラスターも見てみましょう。

  • クラスター① : 低投票率・選挙構造への嘆き賢者層(20%)
  • クラスター② : 小池氏再選消去法だけど受け入れ層(17%)
  • クラスター③ : 選挙終わった、次は〇〇、お祭りミーハー層(17%)
  • クラスター④ : 不正選挙疑心暗鬼層(16%)
  • クラスター⑤ : 小池氏再選想定通り層(16%)
  • クラスター⑥ : 危機感あおり意識高い層(11%)
  • クラスター⑦ : 選挙ダメ出し層(4%)

開票前と比べると、クラスターが細分化されており、フラットな見解のクラスターを除いて、関心の高さからくる実際の結果とのギャップ・意外性の幅によって派生したものかと思われます。

と言いますのも、大きくくくると、投票率の低さへの危惧や特定候補者への投票者に対するバッシング等、自分の考えを発信する層が3割強、不正選挙というワードへの反応・小池氏再選を受け入れている層も3割強、残りが受動的に選挙に関りを持っていた層だとしたときに、開票前の3つのクラスターと傾向としては同一だと思えたからです。

まとめ

といったように、開票前後でのソーシャルでのトレンド・リアクションの検証を行ってきましたが、投票前後のクラスターについては、以下のような変容があったと推察します。

これは、結果が出て、情報源の一つであるソーシャル上で感じられるトレンドと、リアルとの乖離、そこに相対的な関心度合いが係数となって、クラスターが細分化されたということです。

そして、その乖離の要因を見るためには、これらのソーシャル上の投稿者が実際に投票していたのかという点から見る必要がありそうですが・・・残念ながら、投票行為がデータ化されていないので、現時点では別で調べてみないとわかりません。

後編にて、前回の都知事選データなども用いながらこの要因を探ります。



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